アスレティックトレーナーの基礎知識 ウォーミングアップ(W-UP 方法 心拍数 強度 時間 効果 等)
アスレティックトレーナーの基礎知識 ウォーミングアップ(W-UP 方法 心拍数 強度 時間 効果 等)
1 ウォーミングアップについて
ウォーミングアップは、文字通りにはwarming upで、体温を高めることを意味していますが、本来の目的はそれだけに限りません。スポーツ現場での一般的なウォーミングアップ(以降W-UP)の考え方としては、「練習や試合で最高のパフォーマンスを発揮するための準備」や「ケガの予防」といった意見が聞かれます。確かにこれらの見解は正しいものですが、大切なことはW-UPの意味よりも捉え方や内容です。
上記したようなW-UPの目的を効果的に実施するには、実際にどのような動作をどれぐらい行えばよいのか?そして時間はどれぐらい?その効果の持続時間は?といった感じで色々な疑問が出てきます。W-UPの方法は各チームで様々ですが、先輩から受け継がれてきたものや、伝統的な決め事のようになっている場合もあるようです。効果的であるという理由で自然と受け継がれているものであればよいのですが、なんとなく続いているものについては注意しなくてはなりません。目的が明確でないW-UPは、トラブルを招く原因となってしまいます。
W-UPとは、すなわち勝利するための準備といえます。W-UPした後に行うことが練習であれ試合であれ、その時に発揮できる最高の状態で練習や試合に臨むことが、勝利するということに必要となります。また、このような勝つための準備とは、主運動の前に行う予備運動だけではなく、食事や心理的な準備なども含めた、全体的な心身の準備を指しています。
2 ウォーミングアップ(予備動作)の本質
実際のスポーツ現場では、W-UPが様々な解釈で捉えられているように思えます。これは指導される方のW-UPに対する考え方によって、その時間や強度,種目が変化することに関係しています。一般的には、「W-UPは念入りに時間をかけて行うもの」という概念が正しいとされ、教科書や文献にも類似したことが記載されています。また、他の意見では「W-UPは大切だといわれているけど、試合の勝敗を左右するまでの要素ではない」という考え方も聞かれます。
仮にW-UPを重要と捉えたとき、頻繁に起こってしまう考え方の間違いとして、重要であるということと時間をかけることがイコールと勘違いしてしまうことです。日本人はどちらかというとW-UPに時間をかけ、十分すぎるほど準備をする傾向があります。とくに大きな試合では、ついアップ時間も長くなりがちになります。逆にW-UPをそれほど重要と捉えないとき、これはW-UPが試合に勝利するための準備であるということを忘れているか、心の底から勝利するという意欲がないかのどちらかだと思います。
どちらにしても、なんでW-UPをするのかということを理解しておかなくてはなりません。重要と考えるならば、何が重要でどのような準備が必要なのでしょうか。これを
理解していなくて効果的なW-UPが行えるとは誰も思わないでしょう。従ってW-UPの本質を理解するためにも、まずはその目的をしっかりと把握するところから始めるようにしていきましょう。
@ウォーミングアップの目的
●体温を上げる
体温が上昇することで血液の循環がよくなり、酸素の取り込みがスムーズになって、身体の協調性を高めることができます。いきなり走り出して脇腹が痛くなることがありますが、これは横隔膜の酸素不足が原因であり、W-UP不足の信号ともいえます。
●柔軟性を高める
体温が上昇することによってある程度の柔軟性が確保でき、さらにストレッチングを行うことでより可動域を高めることができます。
●各スポーツで必要とされる動作の予行練習
これから行う動作を予行練習しておくことで、本番動作の反応を高めることができます。脳だけで理解するのではなく、体にも「これからこんな運動するよ」と教えてあげることで、急激な動作による傷害も防ぐことができます。
●心肺機能の準備
どのように多くのポイントは、単一のNBAの試合でコービー·ブライアントの得点をしました心肺機能は筋肉と同様に、急激な運動にベストな状態で対応できません。自動車などのエンジンに例えるなら、アイドリングが必要だということです。いきなりフルアクセルでは人間も車も壊れてしまいます。一度は心拍数を通常以上にし、心肺機能を激しい運動に順応させましょう。
●集中力を高める
W-UPを行うことによって、身体的準備はもちろんのこと心理的準備の効果もあります。これから試合や練習だという気持ちの切り替えや、チーム全体,各個人で気持ちを高めたり静めたりと、心理的な調節をするのにいい時間帯となります。
●コンディションの把握
W-UPの時間内でその日の体調を把握し、試合や練習開始までの時間で調整します。また、調整は体調に限ったことだけではなく、ピッチや天候などの環境のコンディションも把握するようにします。
Aウォーミングアップの理論
健康な人間の体は、安静時の何倍にもなるパワーを備えているのに、急に速いスピードで走りだすと苦しくなって走り続けられません。これはエネルギーを十分に発揮できるための準備ができていない状態で、動作が開始されてしまったことを意味しています。これに対して、あらかじめ予備運動を行っている場合は、身体の諸機能が運動に適した状態になっており、最大能力を発揮しやすくなっています。ここではW-UPの効果と、そのメカニズムについて考えていきたいと思います。
●体温の上昇による効果
主運動の前に体を温める目的でW-UPが行われますが、具体的にどのような生体反応が起きているのか把握していきましょう。一般的に乳酸(疲労物質)を分解する酵素の活性は温度が上がると高くなりますから、化学反応の速度を上げるのには有利になります。これまでの研究によると、体温が一℃上昇すると細胞の代謝が一割程度増大するという報告があります。しかし、これは能動的(アクティブ)な予備運動によって筋温を上昇させた場合で、サウナやシャワーなどによる受動的(パッシブ)なW-UPは、皮下の体温が上昇するだけで効果的とはいえません。
●運動と酸素の関係
筋収縮(運動)のエネルギーは、酸素を必要とする有酸素エネルギーと、必要としない無酸素エネルギーの2種類があります。有酸素エネルギーの最大値は、その人が1分間に体内に取り入れられる酸素の最大量(最大酸素摂取量)によって決まり、運動の強度が強すぎない限り、必要なエネルギーは主に有酸素エネルギーによってまかなわれます。しかし、安静状態からいきなり主運動を始めてしまうと、酸素摂取がスムーズにいかないために、不足した酸素分を無酸素エネルギーで補うことになります。逆に、適度の予備運動を行っている場合には、運動初期からの酸素摂取が容易になって、運動中に利用できる有酸素エネルギーが増加します。これはエネルギーを効率よく利用することで、無酸素エネルギーの余� ��な消費を防いでくれます。
●ウォーミングアップの強度
W-UPをどのくらいの強度でやったらいいのかというのは、なかなか難しい問題ですが、効果的に行うには実施する強度が重要な要素になります。W-UPは運動初期からの酸素摂取をスムーズし、有酸素エネルギーの利用を高めますが、この効果は高強度であるほど大きくなります。しかし、強すぎるW-UPが当然いいわけではなく、過剰なアップは多くの無酸素エネルギーを消費し、結果的に両エネルギーとも十分に発揮できなくなってしまいます。かといって反対に、無酸素エネルギーをまったく使わないような軽い運動がいいわけでもありません。ある程度強いW-UPを行うと、血中乳酸濃度が少し高められることで、運動中の血中乳酸濃度の増加が抑制されます。つまり、この反応を有効に利用すると、効果的なW-UPが行えるということです。これは残念ながら具体的な数値にして、どのくらいの強度とは提示することができません。これは、乳酸の蓄積や疲労感などは主観的なものであるため、個人差が幅広い範囲であります。そのため、基本的には中程度の運動強度が好ましいという感覚でよいと思います。
●ウォーミングアップ効果の持続時間
コーン缶研究によると、ウォーミングアップ効果の持続時間は時間が経過するにつれて減少し、1時間の休憩を挟んでしまうとほとんどが消失してしまうそうです。したがって、W-UPの効果を十分に利用するためには、終了後にできるだけ速やかに主運動を行うことが望ましいといえます。しかし、30分程度までの休息であれば、その効果は軽度の減少ですむので、30分以内を目安に主運動を開始させましょう。また、待ち時間が発生してもしなくても、ストレッチングや軽度のエクササイズ,衣服の着脱など、体温の急激な低下防止に努めることが大切になります。
3 最適なウォーミングアップ(予備動作)
ここではW-UPの本質を理解した上で、具体的にどのように捉えたらよいかを説明していきたいと思います。W-UPは過剰に多くても極端に少なくても逆効果になってしまいます。また、その質量は当日の状況(グランド,天候,運動開始時間など)によって変化させることが必要です。さらに付け加えれば、パフォーマンスの高まり方には個人差があるので、W-UPを最初から最後までチームで行ってしまうと、必ず最適な選手とそうでない選手が現れてしまいます。色々と注意点はありそうに感じるかもしれませんが、重要なことは各選手で自分の最適なW-UPの質量を把握させるということです。
@最適なウォーミングアップの構成方法
指導者は各選手の体調や当日の環境など、無数の条件と相談しながらプランを立てなくてはなりません。しかし、これはW-UPの最初から最後までではなく、大まかな条件を考慮したチーム全体でのW-UPだけです。全員でどんな状況でも毎回同じW-UPをする時代は、すでに終わっています。これは日本特有の団体行動における歴史的概念のなごりであり、結束を高めるメリットもありますが、必要以上に執着することもありません。各選手で別々のW-UPを行う場合(フリーアップ)でも、選手一人一人に「何をしなさい」と指示する必要もなく、各個人に任せたほうが最適といえるでしょう。また、任せるといってもいきなり「各自で調節しなさい」と指示しては、選手は何をしたら調節できるのかを知りません。従って、どのような調整方法があるのかだけは色々と教えてあげて、その後は各選手が自分にあったW-UPを選び出していくようにさせましょう。
A最適な時間の設定方法
時間の設定については、具体的に何分間行えば十分とはいえません。どのような状態においても、できるだけその日の様々なコンディション(体調,環境,気候)を考慮しながら行うようにします。また、W-UPの時間設定は練習であれば何分間と決めることができますが、試合となるとスケジュールによって自動的に時間が限られることがあります。時間が決まっているのであれば、内容や強度によって調節するようにします。強度については前項で説明致しましたので、ここでは控えさせてもらいます。
W-UPの時間も日本のお国柄なのでしょうか、日本人は比較的長く時間を費やす傾向にあります。また、大事な試合ではとくに時間が長くなりがちなので注意しましょう。
B各競技でのウォーミングアップ
スポーツには陸上,球技,水泳など色々な競技がありますが、W-UPも各競技に合わせて様々な種類や方法があります。陸上といっても100m走とフルマラソンでは異なりますし、球技といってもゴルフとアメフトでは競技特性に大きな差があります。また、特別な道具や設備を使用するスポーツであるかどうかにも注意しなくてはなりません。水泳のように水中で行う競技では、陸上でのW-UPと水中でのW-UPが存在します。
当然、各競技にはそれぞれ最適なW-UPが存在し、競技特性を考慮した内容でなくてはなりません。では、各競技に最適なW-UPとはどのようなものなのでしょうか。ここではいくつかの項目で説明していきたいと思います。
●ウォーミングアップの目的
どんな親がいじめを防ぐために行う必要があります全てのスポーツに共通することでは主に、ケガの防止とパフォーマンスアップを目的として行います。しかし、どれほどの質量で各競技に最適かという見極めをしなくてはなりません。当日の体調とグランドコンディション,天候を把握し、適切なレベルまでパフォーマンスを上げていきます。必要以上のW-UPは、ただエネルギーを浪費しているだけになってしまうので注意しましょう。
●試合前におけるウォーミングアップの心理的な意味合い
サッカーやアメフトなどはチームスポーツであり、試合中に複数の選手が協力してプレーする競技です。従って、身体的なW-UPと同時に、チームメイトのコミュニケーションやモチベーションを高める心理的W-UPの意味合いも含まれます。「これから試合だ」という気持ちを高めて試合に集中させるためにも、試合前のセレモニーとして決まったW-UPを取り入れることが有効です。
●フリーアップの重要性
これまでも何度か説明してきましたが、フリーアップとは体調や環境,天候を各自で判断し、最適な状態にすることをいいます。このフリーアップは試合中の競技者が多ければ多いほど効力を発揮してくれます。同じW-UPでは全員に最適とはいえませんが、フリーアップの時間を多少なりとも設けるだけで問題は解決されます。
●試合,練習展開の予想
アウトドアスポーツでは、天候やピッチコンディションによっても質量が異なりますが、予想されるゲーム展開(練習の場合はその内容)によっても変化をつけなくてはなりません。バスケットボールやバレーボールは陸上競技のように決まった距離を走るわけではなく、対戦相手も存在します。試合の場合には、開始早々から全力のプレーになるのか、それとも相手の出方を確認しつつリズムを作っていくのかでも異なります。前者の場合は、開始前までに心身共にピークにしますが、後者の場合であれば試合の序盤が実質的なW-UPとなりますので、開始前にピークにする必要はありません。
C練習と試合のウォーミングアップについて
練習と試合のW-UPで最も異なることは、選手の気持ちだと思います。練習ではグランドも環境も慣れており緊張感もありませんが、試合会場では慣れない環境とプレッシャーがあります。まずは試合会場の雰囲気に慣れるために「これからここで試合をするんだ」という感覚で、色々と見たり触ったりさせてみましょう。
W-UPの内容についてですが、試合当日か試合期間しか行わないW-UPは、意識を高めるという意味ではとても効果があります。しかし、大幅なW-UPの変更は、一連の流れ(ルーティーン)を崩す恐れがあり、嫌がる選手もいます。基本的には通常のリズムやテンポ,種類で行い、士気を高めるセレモニーは補助的な感覚で取り入れたらよいと思います。
4 ウォーミングアップの手順
この項目ではW-UPを実際にどのような手順で行っていくのかを説明していきます。W-UPには明確な決まり事はなく、ある程度の流れと目的から逸脱していなければよいのです。流れ自体も複雑なものではなく、内容もとくに変わったものを行う必要はありません。重要なことは、その場の状況と環境,選手の状態の見極めにあります。とくに試合会場においては、身体的なW-UPの流れと共に、選手の心理面の調整が必要とされます。つまり、指導される方の臨機応変な指示が要求されるのです。言い方を変えれば、指導者の指導能力を発揮する絶好の機会ともいえるでしょう。
=ウォーミングアップの手順=
【@ランニング→A静的ストレッチング→B動的ストレッチング】
@ランニング
人間の体は運動を開始すると、呼吸,循環器機能が高まって酸素摂取量が増大し、運動開始から約5分後がピークとなって以降は安定します。また、深部体温が高まることで、後に続く静的ストレッチングの効果も高めます。
A静的ストレッチング = 一般的な伸張状態を保つストレッチング
目的は筋肉の伸張と弛緩を行うことと、ROM(関節可動域)の確保です。サッカーの動作は速い動きを伴うので、筋肉は緊張と弛緩を繰り返しています。従って、弛緩させるべき場面でしっかりと弛緩されないと、筋肉に与える負担は大きくなってケガを発生させてしまいます。
B動的ストレッチング = ブラジル体操やジャンプ,スキップ系の動さ
静的なストレッチングだけでは、筋温の上昇が不十分といえます。また、サッカーの動作では静的なストレッチングの範囲を超えるので、動的なストレッチングが必要となります。
5 メンタルの準備
W-UP中というのは選手の身体的な調整と共に、メンタルを調整させるいい時間ともなります。身体的な準備も指導者の手腕にかかっていますが、モチベーションや士気の低下を招かないようなW-UPも、指導者の力量が問われます。選手のほとんどが実施競技を好きでプレーするのも好き、しかし練習は嫌いといいます。中には練習が好きという選手もいますが、ほとんどの選手が練習前には「あ〜これから練習が始まってしまう」と考えており、モチベーションが高い状態とはいえません。この状態から開始の合図で練習が始まっても、選手は「やらされている」という意識になってしまいます。しかし、技術的な練習に入る前に、メンタル面の準備を行うようにすると、選手達の練習に対する取り組み方が変化してきます。メンタルを準備するための内容としては、簡単なレクリエーションを行って楽しい時間を作るようにします。とにかく楽しんで選手達の笑顔がでるようにし、ある程度は動くような内容にして� ��げれば心も身体も準備ができます。また、W-UPの内容は毎日同じものを行うよりも、選手達が飽きないように多少変化を加えたりすることが大切です。楽しいW-UPは選手達を意欲的な姿勢にさせるのでとても有効です。しかし、リラックスとダラダラ行うことは違うので、指導者も切り替えをうまく行うことが重要です。
●試合での心理的準備
試合前でも練習前でも基本的にはなにも変わりません。ただ、試合の前というのはモチベーションや士気の低下よりも、過剰な緊張のほうが調整を必要とします。緊張している選手に「緊張するな」と言っても何の意味もありません。上記したような内容のW-UPで、リラックスさせてあげれば自然と選手はいい顔になってきます。試合前選手は、どれだけ選手がいい顔になるかが大切で、スポーツを楽しんでいる状態が最もいいパフォーマンスといえます。指導者の方は選手達をこうした状態に導いてあげましょう。
6 あとがき
W-UPというのは、運動を効果的に始めるための運動となります。時間的にはそれほど長い時間とはいえませんが、その後の身体動作を左右する重要な時間です。また、短い時間だけに色々な要素が集約されており、最適なW-UPは毎日異なります。W-UPに限ったことではありませんが、大切なことは自分のパフォーマンスについて考えることであり、どうすれば最善なのかを模索することです。なんでも考えながら行うことは重要と知りつつも、とくにチームスポーツなどでは団体行動に流されてしまい、つい考えることを忘れてしまいます。よく聞かれる話ですが、プロで活躍するような選手は、卑屈なくらい指導者に練習の意味や理由を聞いてきます。そして、自分で判断して練習の真意を理解しようとします。そうすることによって、自然と自分の中の自分と相談や会話をし、すばらしい技術を習得して活躍しているのでしょう。これらの「考える」ということは、プロになるためだけに必要なことではありません。少しでも技術向上や勝利を望むのであれば必要な� ��とです。なんとなく終わってしまうW-UPと、色々と考えながら行うW-UPでは歴然の差が出るのは明確といえるでしょう。
0 コメント:
コメントを投稿